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伝統を守りつつ新しい価値を創造する 愛媛県今治市で「菊間瓦」を作る小泉氏

愛媛県/Ehime

菊間瓦とは

菊間瓦は愛媛県今治市の西部に位置する菊間町で作られている瓦をこう呼ぶ。菊間町は、古くから瓦産業が盛んで1278年~1287年頃に瓦の製造が始まったと言われています。昔は皇居御造営の御用瓦を献上するなど、日本の格式ある建築を支えてきた。菊間瓦には、いぶし銀のような独特の美しい色と艶があることから「いぶし瓦」と呼ばれることもある。その美しさばかりではなく機能性も備えた菊間瓦は、今でも寺社仏閣や住宅で用いられている。
近年では手作業部分を大切にし、伝統技術を伝承した鬼瓦なども製造しているのが特徴だ。

今治市菊間町とは

菊間町は瀬戸内海に面し、温暖な気候で雨が少なく、瓦を自然乾燥するのに適した気候だ。なぜ瓦産業が盛んになったかというと、「五味土」という瓦の原料となる土が出土し、窯焚き燃料となる松葉も多くあり、気候や土地の特徴から瓦を作る業者が増えてきた。また、海に面していて混合する原材料や商品を運搬する海上交通も発達していたなど、瓦を生産し販売する条件が揃っていたため、瓦の産地として発展した。

製造工程

①原土採掘
菊間瓦は香川県の「さぬき土」が60%、町内で出土する「五味土」が40%混合されおり、これら菊間瓦の原料に適した良質の粘土が厳選吟味され採掘されている。
②原土配合
混合されるそれぞれの原土は、粒度鉱物組織含水率(ねばり気)など成分が違い、安定した原土を作るために機械により粉砕し適度な湿気を与えて練り合わせる。
③原土のねかし
混合した原土は、それぞれの土にまだ勢いが残っており、安定した原土を調整するためには、土の勢いを殺す「ねかし」という状態が必要で、約10日間そのまま原土を衣状のカバーで覆い放置する。
④荒地の成形
調整された原土は、さらに真空土練機で空気を抜かれた後に瓦の形に成型される。このもとになる粘土を荒地(素地)と言い、現在は町内瓦業者の大半がそれぞれの地域で組合により共同生産し各事業所に宅配される。
⑤プレス成形
宅配された荒地は4~10日ぐらい工場で再度ねかした後、プレス(切断機)にかけて、それぞれの種類の瓦を成型する。特殊な瓦は、機械で成型できないため、瓦師の手作業によって成型される。このような手作業による優秀な秘技が菊間瓦の特色の一つであると言われている。
⑥みがき
成形した瓦は雲母をつけて仕上げをするが、機械により成形された瓦を再度表面加工することを「みがき」と言う。粘土は乾燥する中で、ゆがみやすくそれを防止したり、また表面の光沢を一層良くするための技術がみがきであり、この手作業による伝統的な技術も、菊間瓦の大きな特色。
⑦乾燥
みがかれた瓦は、5日ぐらい陰干しをする。陰干しにするのは歪みを少なくするためである。急激な乾燥は瓦の品質を低下させるため、窯の余熱を利用するなど、自然に近い転燥状態で瓦の水分を抜く。充分乾燥した瓦を「白地」と呼び、この白地に上薬を湿布し焼成する。
⑧焼成
近代的なガス窯焼成技法で燃料はブタンガスで一窯約1,000枚~1,500枚焼かれる。1,000℃~1,050℃の高温で焼き上げられ、約20時間密閉されていぶされる。いぶし銀色の光沢は、この時にでき、伝統の秘技が生かされる瞬間でもある。

上記の工程を経て、菊間瓦は完成していく。なお、屋根を守る瓦は約50種類あると言われていて、基本の瓦を地瓦(じがわら)、特殊な瓦を道具瓦(役瓦:やくがわら)といい、屋根を象徴する瓦を鬼瓦(おにがわら)という。瓦は産地・用途によって大ささがそれぞれ異なるが、菊間瓦の寸法は屋根を一番美しく見せる大きさだと言われている。

かわらや菊貞の小泉氏

十代も続いている、菊間町でも老舗の瓦屋の小泉氏に話を聞いた。小泉氏は1970年10月10日に愛媛県で生まれ愛媛県で育った。実家が瓦屋であったことから、小さい頃から作業場が遊び場で、すぐ近くに瓦がある環境で育った。

そして、学生の頃から瓦を積み込む手伝いをしていたという。小さい頃から瓦に触れ瓦と共に生活していた為、瓦の仕事を生活の一部として受け入れ、瓦をこれからも発展させ受け継いでいくと意識していた。

ただ、現在の日本で瓦を使った建築が少なくなってしまっているのが現状だ。家はどんどん建つが、その家に瓦が使われなくなってしまっている。そして近年では、新しく瓦を製造するより寺社仏閣や一般住宅の屋根瓦の葺き替えの仕事の方が多いそうだ。

瓦の魅力を創造する

そこで小泉氏が考えたのが、昔から知っている瓦の特徴や魅力を活かして生活の中に取り込もうという手法だ。瓦タイル、お皿などのキッチンツール、干支、蛙、時計、表札、家紋など、いぶし銀の風合いと和の癒しを融合させた魅力的な工芸瓦作品を作っている。

瓦は性質上10%程水を吸収してしまうが、お皿やコップで水を吸収してしまったら使い物にならない。そこで土の配合や焼く温度などを独自に研究をし、キッチンツールとして使える最適な水分吸収率にたどり着くなど、時間をかけて瓦の新しい使い道を追求している。

また、自身がお酒を飲むこともあり、自ら作った瓦のコップでお酒を嗜み、飲み口の薄さや持ち手の部分の改良など、現状に満足することなく最高の作品を作り続けている。

今後の瓦について思うこと

小泉氏は瓦の新しい使い道を自分で考え、自分で道を切り拓いてきた。だが、これから瓦を製造していく業者は減っていくと予想している。理由をいくつか教えてくれたが、瓦を使う住宅が減っているのはもちろんのこと、いぶし窯を新しく購入するとなると莫大な金額がかかってしまうので、新規参入が難しいというのもあるそうだ。このような理由から瓦を見る機会や触れることがどんどん少なくなってきてしまっている。

そんな状況ではあるが、だからこそ一つ一つ丁寧に作っているという。ご存知の通り日本の寺社仏閣には必ず瓦が使われている。そのお寺は小泉氏がこの世を去ってからも残り、そこで使われている瓦も残り続ける。だからこそ耐久性が高く、高品質で美しいいぶし銀の菊間瓦を、自分の代で認知度を上げたり使われる機会を増やしたりと、できる限りのことをしていきたいと決意を語ってくれた。

かわらや菊貞 小泉製瓦(有)
〒799-2303 愛媛県今治市菊間町浜13-1
Tel : 0898-54-2313
営業時間:午前9時〜午後5時
https://www.facebook.com/kikusada/