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傘はその人を輝かせるアイテムであってほしい! 金沢にある「松田和傘店」が作り伝える日本の伝統

石川県/Ishikawa

本来あるべき傘の姿

傘というとビニールでできていて透明で安価に買える物を連想する人も多いはず。しかし傘という漢字をよく見ると「人」という字が4つも使われている。これは傘1本作るのに複雑かつ多くの工程を経る必要があり、本来であれば時間をかけて1本1本丁寧に作られていたということが想像できる。

その長い工程を経て、持っていても美しく、差して日本の街並みに合う和傘を今回は紹介する。

傘の歴史と和傘の広まり

東洋での傘の歴史は、中国で女性が使う天蓋(てんがい)という日除け目的の折り
たたむことができない傘が最初だと言われてる。日本には飛鳥時代(592年〜710年)に中国の百済(くだら)を経由して入ってきた。平安時代(794年〜1185年)になると和紙製造の技術の向上もあり、竹細工を取り入れて改良された傘になり、さらに室町時代(1336年〜1573年)になると、和紙に油を塗って防水性を施し、雨傘としても使われるようになった。
和傘の広まりは江戸時代になってからで、歌舞伎や踊りの小道具としても使われるようになってきた。

金沢和傘の特徴

今回取材した松田和傘店が製作する金沢和傘は、金沢ならではの特徴がある。
原料は、かつて金沢周辺に群生していた孟宗竹と真竹を傘の柄に、富山県の五箇山と福井県の今立から採れた楮(こうぞ)から出来た和紙を使っている。ちなみにこの楮を使った和紙は、丈夫であるからこそ厚くて固く、加工するのが非常に難しい。この和紙を和傘に使うために操るのも一苦労だ。

そんな扱いが難しい和紙を使うのには理由がある。金沢は雨が多い地域であり、冬は水分を多く含んだ重い雪が降ってくる地域だ。そのため、この厚い和紙を使う必要がある。そして、耐久性を増すために傘の先端に近い「天井」と呼ばれる部分には4枚重ねて張っている。これは他の地域には見られない最大の特徴だ。また、縁の部分には「小糸がけ」といい、しっかりと糸がかけられ、補強の役目を果たしている。小糸がけは補強の役割もあるが、デザインとしての役割も果たしている。

松田和傘店

石川県金沢市にお店を構える松田和傘店の創業は1896年。福井県敦賀市で傘づくりを習った初代の菊太郎氏が、金沢に戻り和傘店を開いた。既に記載した通り、金沢の気候にあった強靭な傘を丁寧に作っていたお店は、数十名の弟子や丁稚奉公を抱え、順調に商売をしていた。
その後、現当主であり今回取材をした松田重樹さんの父、二代目の弘氏が後を継いだ。だが1960年前後、軽くて携帯しやすい洋傘が世の中に出回りはじめ、和傘は一気に落ち目となった。弱気になり廃業の寸前にまで追い込まれた弘氏のもとに、ある日1人のイギリス人が来てこう言ったそうだ。「この和傘は日本の文化なので、あなたは止めてはなりません。もし傘が売れなければ、ここにある傘をすべて私が買い取ります!」と。
その言葉を励みに息を吹き返した弘氏は、これを機に仕事に誇りを持ち、松田和傘店が今も存続している。そして、この美しい和傘が今もこの場所で見ることができている。

ちなみに、写真は本物の笹と紅葉が織り込まれている和傘。

この他にも、舞妓を描いたものや、龍を描いた和傘などもある。

三代目 松田重樹氏

今回、松田和傘店の三代目である重樹氏に話を聞くことができた。重樹氏は1959年3月30日に松田家の次男として金沢で生まれる。

二代目である父親は小学校の頃から和傘を作っていたため、重樹氏にも小学校の頃から仕事の手伝いをさせていた。その為、和傘の工程にある千鳥がけの方法が小学生の時にはなんとなく分かっていた。これが後に役に立つ。

家業を継がずに学校を卒業した重樹氏は、公務員として仕事を開始する。だが、金沢和傘の美と伝統を後世にも残したいという思いから、家業を継ぐことを決意した。

しかし、その決意を父親、母親、兄、姉、親戚の全員に伝えたところ、猛反対にあったそうだ。洋傘が大量に流通している現代で、和傘だけで商売していくのは至難の業。それでも重樹氏は家業を継ぐことにした。

話は前後し、重樹氏が成人になった時に、千鳥がけの作業を手伝ったことがあったそうだ。小さい頃からその作業を見ていた重樹氏は、複雑なその作業をいとも簡単に完成させてしまったらしい。

親から聞いていた話を実体験する

「手入れがよければ、和傘は半世紀はもつ」と父親に言われていたそうだが、その時には真に受けていなかったそう。だが、昔からのお客様から四十数年前に買った傘を修理して欲しいなど、半世紀近く前に作った傘の修理依頼が実際にくるそうだ。ちゃんと丁寧に作った傘で、お客様に大切に使われている傘は、本当に半世紀も使うことができるのだと実感している。

和傘のこれから

ただ売り上げ作りたいのであれば、インターネット販売や百貨店で販売すればいい。しかし松田和傘店では工房で手作業で和傘を作り、直接お客様に販売している。長い期間をかけて製作した和傘にはどうしても愛着が湧いてしまい、それをお客様と会話しながら渡すのが楽しいそうだ。そのため、繰り返し購入してくれたり、オーダー注文なども多く、年に10日も休めていないのだとか。少ない休みには、作業で痛めた腰を労わるために石川県などの温泉巡りをし気分転換したら、また作業に戻る日の繰り返しだ。

最近では海外からの観光客がお店に来てくれることも増え、日本の和傘が世界に広まり使われているのが実感できている。とにかく良いものを作り、長く大切に和傘を使ってもらい、使ってくれる人に喜んでもらいたいと重樹氏は話してくれた。なぜなら、傘はその人を輝かせるアイテムであるべきだから。

松田和傘店
〒921-8023 金沢市千日町7-4
Tel : 076-241-2853
営業時間:9:00〜17:00
定休日:不定休
facebookページ:https://www.facebook.com/kanazawawagasamatsudawagasaten/