有田焼とは、佐賀県有田町とその周辺地域で製造される磁器のこと。日本で初めて焼かれた磁器が有田焼と言われています。薄くて軽く、そしてなめらかな肌触りが魅力の磁器です。青一色でシンプルに色付けされるものや色鮮やかに描かれた作品もあり、その繊細かつ華やかな絵付けは見る者の心を奪います。
有田焼は分業制で制作されることでも有名です。分業制を採ることで、それぞれの職人さんの技術を高めることにつながっています。成形、絵付、焼成と各分野の職人さんが力を合わせて1つの作品を作り上げるのですが、今回は絵付職人の塚本増夫(窯元名:塚本増山)さんにお話を聞きました。
日本で初めての磁器が有田で生まれる
まずは有田焼の歴史にせまりましょう。
有田焼は、17世紀の初頭に朝鮮人陶工の李参平(リサンペイ)らによって有田町で磁器の原料となる陶石が発見され、有田にて日本で初めて磁器が焼かれたことでその歴史が始まりました。以来、有田の町では400年以上にわたり有田焼の製造が続けられています。
(写真は有田焼の原料の採掘場)
1900年代後半になり日本経済が発展してくると、割烹料理屋で有田焼を使うニーズが爆発的に増えました。またお祝いに有田焼を送るブームもあったりと、大量生産が必要に。そこで一点一点手書きをするのではなく、転写を有田焼に取り込むことで、一般家庭に有田焼が普及していきました。いまでは手書きで絵付けすることは減ってしまったものの、こだわりのある料理人さんや海外の方も直接購入に来られることもあります。
16歳で名門窯元に入社。塚本氏
ここからは絵付職人の塚本さんについてです。(通商産業大臣認定 伊万里・有田焼伝統工芸士、厚生労働大臣認定 一級技能士・ものづくりマイスター)
塚本さんは1945年、佐賀県伊万里市に三人兄弟の末っ子として生まれました。小さい頃に父親が戦死したため、顔は知らないそう。
小さい頃は、天気のいい日は野球して、雨が降る日は友達と漫画を描きながら遊んでいたのだとか。この漫画を描いていた経験が今の絵付けの技術にも活きているのかもしれない、と話す塚本さん。中学校に進学してからは美術部で様々な作品の制作に打ち込んだそうです。
有田焼を仕事にしようと思ったのは、知り合いに有田焼を紹介されて興味を持ったからだそうです。中学校卒業の15歳の時に有田陶磁技術員養成所に入所して焼物に関する知識や技術を学んだとのこと。そして1961年2月に名門窯元の一つである香蘭社に入社。染付部門に配属されます。分業制で作業をするのが基本ですが、職場では塚本さんが1番若かったため絵付け以外にも窯焚きなどの作業も行わなければならないこともあったそう。
会社の先輩はいいものを’’見て盗め’’というスタイルで、絵付けを直接指導してくれることはほとんどなかったのだとか。
仕事が終わってからも、自己研鑽に励んだ塚本さん。先輩から絵を教わるのではなく、出来上がりの有田焼を見ながら絵を描いたりしていたとか。山水画や花や鳥など、「本当に色々なものをデッサンしていた」と当時を振り返ります。
鱗の1つ1つに魂を込める。塚本さんのやりがいとは
塚本さんに仕事のやりがいについて聞いてみました。
「今は料理人さんが1点物の有田焼を買いに来ることがあるくらいになってしまったが、手書きの作品をわざわざ購入してくれると嬉しい」と塚本さん。
やりがいを感じるのは、個展などで「あなたの線描きは特徴がありますね」と買ってくれる人に言われた時なのだとか。色々な有田焼を見てきた方にタッチの違いなどがわかると言われると本当に嬉しい、と塚本さんは笑みを浮かべます。
そのために、例えば鯉の絵を描く時には「描いている鱗が乱れたら魚が死んでしまう。そのために1つ1つの鱗の部分に真剣に向き合って心を込めて描かなければならない!」と力強く話す塚本さん。
伝統技法を守っていきたい。後世にかけた有田焼への想い
有田焼は長年の伝統技法を地域で守って繁栄のために色々と頑張ってきたと話す塚本氏。これからは、新しい時代にあった形状・デザインの開発に取り組む必要があると考えているとのこと。時代は変わっても伝統技法はしっかりと守りつつ良いものを残していきたいと意気込みをお話されます。
そのために今は跡継ぎや後継者を育てたいと、佐賀県陶磁器工業協同組合の絵付け研修に参加して、技術を教えているのだそう。伊万里・有田焼伝統工芸士で一番若いのは30代の方なのだとか。
そして最近では海外から有田焼を学びに来る方もいらっしゃる。佐賀大学芸術地域デザイン学部はかつての有田窯業大学校の機能の一部を担っていて、また、佐賀県窯業技術センターでも中国・韓国を中心にヨーロッパなどから有田焼の技術を学ぶ学生を受け入れている。塚本さんは期待を込めてそう話していた。
有田では、毎年4月29日~5月5日に有田陶器市という国内最大級の陶器のイベントが開催されています。有田駅から上有田駅を結ぶ通りをメインストリートとし、有田町のいたるところで露店が並び、全国から約100万人が訪れます。
日本で初めての陶器をその目で確かめたいという方は、ぜひ有田へ、塚本さんのもとへ足を運んでみてください。
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