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福岡県柳川市で親しまれている「さげもん」に欠かせない「柳川まり」を愛し広めている原田氏

福岡県/Fukuoka

柳川まりとは

柳川で生まれ育った人には馴染み深い「さげもん」。福岡県の柳川地方では、古くから女の子が生まれると初節句に子供の健やかな成長を願い、ひな段と一緒に色とりどりの「さげもん」を飾り、盛大に祝う風習がある。
この「さげもん」は、縁起が良いとされている鶴をはじめ、うさぎ、ひよこ、這い人形などの布細工が吊るされていて、無病息災や良縁など、母親、祖母、親戚等の願いが込められている。

写真のように色々なものが吊るされているが、装飾の数や列などが決まっている。その決まりとは、竹の輪に紅い布と白い布を巻き付け、飾り物7個を7列ずつ、中央に2個の柳川まりを吊るしている。なお、この合計51個の飾り小物は、人生50年と言われていた当時に1年でも長く生きられるようにとの願いが込められているそうだ。
今回紹介したいのは、この「さげもん」の中央に吊るされている「柳川まり」だ。鮮やかな糸で巻き上げた「柳川まり」は、この地域で長い歴史を経て親しまれている。

水の都 柳川市

そんな柳川まりが生まれた柳川市は、市内を掘割が縦横に流れることから水の都と呼ばれている。昔は城下町であり、当時の城を守るために作られた水路が町の中を流れている。現在はその水路を「どんこ舟」で巡るのが柳川市観光名物の川下りだ。当時の石垣や掘などの遺構を見ながら、柳川の雰囲気を味わえるのが人気の理由。
他にも柳川の武家であった旧藩主立花氏の別邸「御花」が有名である。このほかにも干拓地を中心にい草、有明海で海苔の養殖、鰻料理なども人気である。

柳川まりの歴史

江戸時代に旧柳川藩立花家につかえていた腰元(身分の高い人のそばに仕えた侍女)たちの嗜みとして作られていたもので、七色の草木染め糸を用いた草木まりが原型と言われている。

現代になってからも細々と作り方や柳川まりの魅力などが伝承されていたが、昭和30年代に入り柳川まりの存在を確固たるものにするできことがあった。立花家の奥女中だった池末フユ氏に師事していた北島ミチ氏の姪である北島たえ氏らの有志によって、柳川まり保存会がつくられた。この活動により柳川まりの作り方が正しく受け継がれ、地域で愛される存在になる。

柳川まりの作り方

現代の柳川まりは巻芯に木毛を丸めて毛糸で形を整え、これにポリエステルの糸を使い刺繍していく。昔はリリヤン糸(レーヨンを細く編み込んだ手芸用のひも)を解いたもので刺繍をすることにより、艶のある作品に仕上げていた。今もこの名残を活かし、リリヤンのちぢれを生かしふんわりと立体的に仕上がっている。

①木毛を毛糸で巻き、丸く整える
木目は倒木の杉の木を薄くて細長くしたもの。杉には防虫効果もあり、柳川まりの中心にはこの木毛が使われている。それを毛糸で丸く整えるが、美しい球体にするにはこの作用が1番大事だと言われている。

②さらに綿で包み、木綿糸で巻く
一度丸く整えた球体を更に柔らかい綿で包み、それを木綿糸で巻いていきより硬い球体にしていく。

③地割り
次に、模様に応じて球体の両端からの長さを測りながら基本となる糸を入れていく。針は大きく太めの針を使う。

④模様をかがる
最後に、様々な色の糸を刺していき、模様をかがっていく。一つ一つ丁寧にかがった柳川まりの模様は美しく上品さを醸し出している。

ハラダ手芸店の原田氏

今回、柳川市のハラダ手芸店の原田裕子氏に話を聞くことができた。原田氏は昭和45年12月28日に柳川市で生まれた。4人兄弟で兄が1人弟が2人という中、女の子1人だけという環境で育った。男の子ばかりの中で、追いかけっこなどをしながら、やんちゃに遊んでいたそうだ。さげもんが有名な柳川市で育ったが、柳川まりなどは小さい時に少し見たことがある程度だった。

その後、中学校と高校も柳川市内の学校に通い、就職をした後に地元のサークルで出会った現在の旦那さんと結婚することとなる。ここで転機が訪れる。嫁いだ先が、今回取材したハラダ手芸店だったのだ。今まで柳川まりを作ったことがなかったが、手芸店に嫁いだため手芸道具や手芸に詳しくならなければならない。そんな状況にあったが、大変なことは全くなく仕事がとても楽しかったと話してくれた。

現在ハラダ手芸店では柳川まりを作る教室を開催しており、教室に通ってくれる生徒さんが自分で作った柳川まりを見て、とても嬉しそうな表情をしている時がとても嬉しい瞬間だと教えてくれた。

それもそのはず、綺麗な球体を作ったり、自分の納得がいく刺繍をするには根気と時間が必要だ。それに加え、さげもんを作るには柳川まりの他にも、鶴をはじめ、うさぎ、ひよこ、這い人形なども作らなければならない。全部を作って下げるまでにかなり時間がかかる。手芸店で働いているからこそ、実際に作っている生徒さんの大変さも、その大変さを乗り越えた後の感動も一緒に味わえることができるのだ。

柳川まりの現在と未来

最近では若い方も柳川まりを習いに来るそうだ。地元の人たちや、少し離れた福岡市内から若いカップルが来るようになっている。
その理由として、毎年柳川で開催される「さげもん祭り」の存在が大きい。月遅れのひな祭りとして、柳川では4月3日が桃の節句となっている。年々、祭りに参加する人の数も増え、柳川市でも街をあげて取り組むお祭りの一つだ。毎日店頭に立っている原田氏にとって、さげもん祭りの賑わいを見ながら、柳川まりの今後に期待を膨らましている。

さらに最近では、伝統を残そうということで小学校で体験授業を開催したり、家庭科クラブに教えてに行ったりもしているそうだ。

日本の一部の地域で残っているお祭りや風習だが、地域皆で取り組むことで、ちゃんと受け継がれこれからも長く残っていくと柳川市を見て感じられた。

ハラダ手芸店
〒832-0024 福岡県柳川市辻町1
Tel : 0944-73-2237
営業時間:9:00~19:00
定休日:第1・3日曜日(さげもん巡りの期間は営業)
http://sagemon-harada.sakura.ne.jp/