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愛媛県内子町で日本の灯りを作り続ける、大森和蝋燭屋6代目の太郎氏と7代目の亮太郎氏

愛媛県/Ehime

和蝋燭とは

現代の日本で和蝋燭を見る機会も使う機会もあまり多くはないかもしれません。昨今使われている蝋燭は安価な洋ローソクが主流です。和蝋燭は日本独特の情緒や趣深さを感じられます。そこでまずは、和蝋燭と洋ローソクの違いから説明します。

和蝋燭は櫨の実(はぜのみ)を乾燥させ潰し、蝋分である粉を蒸して絞り抽出した木蝋(生蝋)を使います。芯には和紙、い草の髄から取れる燈芯、真綿を用い、一本一本手作業で製造するため、できあがる数も限られます。そして最大の特徴として、炎が大きく表情豊かに揺らぎます。また、芯が太いため消えにくく、芯が蝋を吸い上げながら燃焼するので蝋が流れにくいという特徴もあります。

一方、洋ローソクは石油から採れるパラフィンを原材料に使い、芯には糸を使っています。和蝋燭とは違い機械により大量生産することができ流ので、世の中に広く広まっています。炎は小さく消えやすいといわれている。

和蝋燭が作られている愛媛県内子町

内子町(うちこちょう)は江戸時代(1603-1868)から明治時代(1868-1912)にかけて、和紙と木蝋の生産で栄た町です。特に木蝋の品質の高さは海外でも評価され、最盛期には全国生産の約30%を占めました。大正時代(1912-1926)以降は、石油や電気の普及によって木蝋生産は少なくなってしまいましたが、当時の繁栄ぶりが分かる、立派な家が何軒も連なる町並みを見ることができる。そして、特徴的なが1982年に国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されています。

大森和蝋燭の製造工程

大森和蝋燭の製造工程では、和蝋燭がどのように作られているのか、順を追って説明します。
①芯差し
和紙と燈心草(い草)、真綿で留めた芯を竹串に通す
②生掛け
芯に生掛けを施す40℃〜45℃に溶かしたハゼの実から採取した蝋(木蝋)を素手ですくい上げ、何度も塗り重ねます。蝋燭の太さや大きさは、芯の太さや大きさだけでなく、生掛けの回数によっても変化します。
③艶出し
45℃~50℃の蝋で表面を擦り艶やなめらかな質感を出していきます。
④芯出し
芯部分の蝋を熱したコテで溶かし切ります。
⑤仕上げ
蝋燭の下部についた余分な蝋を切り形を整えます

六代目の大森太郎氏と七代目の大森亮太郎氏

ここからは大森和蝋燭屋、六代目の大森太郎氏と七代目の大森亮太郎氏に関して。
大森太郎氏は1950年2月2日に内子町で大森和蝋燭の六代目として生まれる。中学生の頃から家業である蝋燭に興味を持ったが、すぐに継ぐことはなかった。家業を継ぐ前には繊維を扱う会社に就職。そこは、日本の中でも大手の帝人株式会社の松山工場だった。ただ、この時から休みの度に実家に帰ってきており、蝋に直接触れてこの温度だと蝋が固まらずに作業ができる、この温度だと上手く生掛けができないなど、直接触れて感覚を養っていたそうだ。そして25歳頃に実家に戻り、15年間地元の精密機械工場に勤めながら家業の和蝋燭製造を兼業し、40歳から蠟燭一本で家業を継ぐことになる。

七代目の大森亮太郎氏は昭和61年10月22日生まれ。高校を卒業したあとは、父と同じくすぐには家業を継がずに松山でアパレルの仕事をしていた。写真でも分かるように、作務衣を格好良く着こなしていることからも、アパレルで働かれていたという経歴に納得だ。この時から、いつか家業を継ぐのかなというのは考えていたそうだ。そしてこの時にお客さんの中で大森和蝋燭屋を知っている人に会ったこともあり、話の流れから実家がその和蝋燭屋という話をしたこともあったという。お客さんからの客観的な伝統工芸の素晴らしさや貴重さなどお話を聞かせて頂くうちに家業である和蝋燭製造に向き合い始め、5年間アパレルの仕事をした後に実家に戻り七代目として和蝋燭を仕事にしていくことになる。こうして家業を継いだ亮太郎氏だが、仕事をしていくうちに代々続くこの伝統をただ跡を継ぐという気持ちだけで自分が後継者として和蝋燭を作っていいのか、自分が続ける意味があるのか、などの葛藤があったそうだ。

現代の和蝋燭の使われ方

昔は高級な灯具として扱われ、ごく一部の商人や武家の限られた人々の元にしかなかった和蝋燭。現代では主に仏具として扱われるイメージがあるが、昨今では和蝋燭ならではの神秘性や癒しの炎が再評価されダイニングや舞台での演出、風に強く炎が明るいことからアウトドアや非常用としても和蝋燭を使ってくれる人が少しずつ増えてきているそうだ。今の時代必需品ではない和蝋燭をただの古いモノとしてではなく、人それぞれの感性でライフスタイルに和蝋燭を取り入れ「こんなシーンや場所で和蝋燭を使ったら凄く良かった」などの感想を聞く事もあり、大森さんがこの仕事をしていて良かったと思う瞬間の一つでもあるそうだ。

和蝋燭への思い

七代目の大森亮太郎氏に、和蝋燭への思いを聞いた。亮太郎氏は小さい頃からお仏壇やダイニングなどで和蝋燭を使っていたので馴染みがあった。ただ、最近ではLDEや洋蝋燭などがあり、お金がかからずに長時間使えるものに代替されてきてしまっている。つまり絶対に和蝋燭が必要かと言えば、そうではなくなってきてしまっている。

ただ、機械が作る大量生産の品物ではなく、一つ一つ丁寧に作る和蝋燭だからこそ作り手の思いがあり、使う側も大切に使ってくれる。先述した現代のライフスタイルに昔からある和蝋燭を取り入れて頂いたり、お寺や神社では今でも伝統のある和蝋燭を使ってくれている。そのような人がお金を出してでも買いたいと思うように、また日本の古き良きモノの一つとして今後の時代に残していけるようにこれからも伝統を引き継ぎつつ和蝋燭という伝統を広めていきたいと教えてくれた。

伝統的工芸品 和蝋燭製造販売元
元祖 大森和蠟燭屋
〒791-3301 愛媛県喜多郡内子町内子2214番地
Tel : 0893-43-0385
営業時間:午前9時〜午後5時
休業日:火、金曜日
http://o-warousoku.com/index.html